バイオベンチャーという種類の会社は、「産学官連携」の掛け声の下で、大学の先生が開発した技術が事業化されるパターンがとても多いです。つまり、大学の後ろ盾のもとで生まれています。大企業の子会社として始まる場合もあります。その一方でうちは、大学とも企業ともつながってない、「インディー・バイオベンチャー」です。
「インディー・バイオベンチャー」には大学や企業の後ろ盾が無いため、それなりの立ち回り方が必要だと思います。まずシードステージでのメリットデメリットを振り返ってみます。
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メリット:
・知財運用で上位組織による制約がない
・人員運用で上位組織による制約がない
デメリット:
・少なくとも初期は知財獲得手段が限られる
・信用が無く、資金調達が困難
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この場で思いついたものを並べただけなので、まだ色々あるはずです。さらに詳細なケーススタディーをするならば、ユーグレナかリプロセルが最適だと思いますが、今後の課題です。とにかく「インディー・バイオベンチャー」には、メリットを生かしてデメリットを克服する仕掛けが必要です。
知財は担保にならないので、銀行はほぼ無理
バイオベンチャーを含む研究開発型ベンチャーでは、種となる知財がないと、資金調達のスタートラインに立てません。アイディアを知財にしてスタートラインに立つためには弁理士が必要で、これに資金調達が必要です。テンプレ「にわとりたまご」状態です。
「大学発ベンチャー」ならば、知財が先にあります。大手企業ならば、特許費用の100万弱はすぐ出せます。でも「インディー・バイオベンチャー」は、その100万弱のお金が出せません。
出願に関しては中小企業向けの減免措置がありますが、一番重いのは弁理士費用です。うちでも資本金150万のうち、特許関連費用で80万円…かなりきついです。「種となる知財(シード特許)」の獲得以降も、研究者が持つアイディアを検証して知財化していく必要がありますが、今度は実験室が必要です。これは弁理士さんよりもお金がかかります。読者に役人さんいたら、ここら辺を何とかお願いします!ヽ(´∀`)ノヽ(´∀`)ノ
そこで資金調達が必要になりますが、うちはでは「銀行から借りる」は考えていません、というか借りられません。資金調達には「信用」を獲得している必要がありますが、銀行が言うところの「信用」の獲得は分が悪いです。
「インディー・バイオベンチャー」にとっての最大かつ唯一の武器である知財は、融資判断にあまりプラスになりません。銀行は知財の価値を判断できないため、財務諸表に反映できない(換金できない)からです。特許を担保にして金額換算して何とかしようという動きもありますが…個人的にはうまくいく気がしません・・・ http://www.sankei.com/economy/news/141007/ecn1410070004-n1.html
エンジェル・VCにとっての「信用」
そうなると、財務諸表以外の方法で「信用」を獲得し、エンジェル投資家やVCから資金調達することになります。そして、ここが「インディー・バイオベンチャー」のメリットの使いどころになります。
特に重要なのが、知財運用だと思います。というのも、今の時代の「知財運用」とは、事業計画立案そのものだからです。この辺は妹尾堅一郎氏の主張が参考になります: https://enterprisezine.jp/bizgene/detail/4236
少ないリソースの中で知財を運用して収益を上げる優れたモデルが考えられているか、そのモデルが実現した将来から現在に逆算したら、このベンチャーの価値はいかほどになるか、という考え方をしてVCは投資判断をします。エンジェル投資家が「夢追い形」の人で事業モデルにこだわらないとしても、投資するならやっぱり事業モデルをしっかり考えられる様な人に投資するでしょう。
さらに言えば、事業モデルを組み立てた結果、今から儲かってしまった場合。こうなると資金調達自体が不要になります。自己資金でできるのであればこれほど良いことはありません。(“Shojinmeat Project”にとっての”SCIGRA”は、それを目指しています。)
とにかく「将来ビックになりそうだ」と期待させられる知財運用計画(事業計画)を作り上げ、今の会社価値を上げることが最重要です。あとはそれを実現するための人材や知財の具体的な運用の話になります。
で、どうする
人材運用について、大学発ベンチャーとかだと他の業務に時間をとられます。時間を取られるだけならまだしも、意識というか集中力を取られてしまうのが一番致命的です。なので少なくとも社長はフルコミットじゃないと厳しい(というか話にならない)と思います。
知財運用についても、大学発ベンチャーではTLOとのライセンス調整で年単位の時間がかかってしまうこともあります。先生方が他に結んだ契約や、研究室の研究方針、既に獲得した研究予算との兼ね合いも無視できません。(ちなみにクモの糸繊維のスパイバーは、慶応と知財買戻しで相当揉めたそうです。)
対して「インディー・バイオベンチャー」では知財運用は決めたら即実行できます。(その分、このメリットを手放さない知財運用は重要です。ただその話はシード期以降なので後々に。)
他にも「インディー・バイオベンチャー」にはブランディングの制約がないことを生かして、大学発ベンチャーができないようなPR手段を講じて認知度を上げたり、人材を惹きつけることもできます。より対等な立場(知財で揉めない立場)で大学と組むことも目指せるようになります。全てはアイディア次第で、そのようなアイディアを捻り出して具体化できる能力を見せられることが、VCやエンジェルにとっての「信用」です。
こうして知財・人材を組み合わせてVC・エンジェルの「信用」を勝ち取り、継続して知財を生める体制を作りあげた会社が、「研究開発型ベンチャー」として次のステージに行けるのだと思います。(自分も行けるといいな・・・)
「インディー・バイオベンチャー」について色々書いたけど、典型的な「起業あるある」で、何も新しい話は無いじゃないかと自分でも感じてます。でも、そう感じること自体が「バイオベンチャー」という存在の本質を突いている気がします。
偉い先生が後ろ盾だったり資金バックが厚かったり、またかというほど「新たな起業のかたち」がメディアを賑わす従来の「(大学発)バイオベンチャー」が異常だったのではないでしょうか。