10/8-10/13は「2nd International Conference on Cultured Meat (第2回国際培養肉会議)」なるもので発表するため、ブリュッセル経由でオランダ、マーストリヒトに行ってきました。
2013年に人工培養肉バーガーを作って注目を集めたMark Post先生のおひざ元です。
10/8(土)の11:00成田発、同日15:50(現地時間)ブリュッセル着、そのままAirbnbで予約した場所に直行して即就寝、翌日10/9(日)は、ブリュッセル市内観光をちょっとしてから移動、マーストリヒトの会場で参加登録、10/10(月)は自分の発表、10/11(火)は午前で全プログラム終了、午後はブリュッセルに行き、大学院時代の友人と一緒に夕食、空港まで送ってもらって21:10発のフライトで帰路へという、色々詰まったスケジュールでした。
この会議の参加者数は95人、発表は15件、うち11件がバイオの研究発表、4件が文系発表、これにパネルディスカッションが2回でした。発表4件ごとに1時間のコーヒーブレイクと、参加者の間での会話の時間がとても多く取られていました。
発表の内容としては、生体組織工学技術を用いて、いかに筋肉組織を体外で作り上げるのか、どの細胞はどんな培養方法が有効なのか、新たな種で実験してみた結果、技術評価の方法論、知財についてなどがありました。自分は培養液の開発状況について発表しました。
(※この会議でされた発表の詳細や参加者等の情報に興味のある方は、こちらまでお願いします⇒ http://www.shojinmeat.com/contact-cudb )
「廊下会談へのチケット」
この会議ではあることを強く感じました。
よく、「海外では重要や話は場外で決まる」と言われます。
「本当に重要な話はプログラムや発表資料には載っておらず、場外や会食の席で行われるトップ同士の会話で即決される」ということです。日本でも「国を左右する重要な政治判断は、国会ではなく高級料亭で行われる」という話がありますが、同じようなものです。
今回の学会でも、それを目の当たりにしました。
随所で商談も行われていましたが、個々の商談どころか業界全体を形作るような会話も行われていました。
例えば、ある有力な財団の人が参加しており、どの研究や団体を支援するか、コーヒーブレイクの時間に会場のすぐ外で決めていました。
ほかにも今年2月に3億円を調達したアメリカの培養食肉ベンチャーのCEOと、イスラエルの有力NPOのトップが会場すぐ外の廊下に集まり、業界内での知財のあり方を話し合ってその場で合意に達していました。
10年後は数兆円規模になるかもしれない産業の方向性を、各ベンチャーや団体のトップが廊下での立ち話で決めているわけです。
そして日本企業はこんな「廊下会談」に参加できているのかと、よく問われます。でも実際にできているかどうかはともかく、「(グローバルな)コミュニティーに貢献できているか?」という問いの方が重要だと思います。
実は今回の学会に行く前、たまたまIT系エンジニア系のこんなブログに遭遇しました。
http://simplearchitect.hatenablog.com/entry/2016/09/07/080521
一番重要なことはこの画像一枚に凝縮されてます。
このブログはソフトウェア開発についてですが、今回行ってきた会議でも同じだと感じました。
ここでのコミュニティーとは、今まさに立ち上がりつつある培養食肉・細胞農業のコミュニティーです。そしてこのコミュニティーへの貢献が、そのまま廊下でのトップ会談へのチケットになります。行って聞き専して「最新情報」を手に入れ、帰国後に翻訳して共有するだけでは、廊下会談には入れません。
もし登壇して発表するというのであれば、廊下会談へのチケットは手にしています。でも前職(某大手電機メーカー)での様子を見る限り、英語ができないとか裁量がないとか理由をつけて、チケットを使わずに捨ててしまう例が多いのではないかと心配です。
おまけ:とあるイギリス人にとってのBrexit
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ところで帰りはブリュッセルで空港に行くまでの間に、大学院時代の友達のS君(イギリス人)と久しぶりに会いました。
S君は3年前にスペイン系のオランダ人の奥さんと結婚し、現在は子供とユトレヒトで暮らしています。3か月後には第2子が誕生の予定です。
そんなS君に対して、「ちょっとセンシティブな話題かもしれないけど、聞いてもいい?」と切り出しました。
自分:「これからイギリス人として生きてくつもり?ヨーロッパ人として生きてくつもり?」
S君: 「正直、まだ決めてないよ。市民権は700ユーロでいつでも取れるけど。少なくとも先2年は何もしなくていいけど、うん、まだ決めてない。」
自分: 「あの日はどうだったの?」
S君: 「生まれて初めて自分の国を恥じたよ。(I was for the first time in my life felt ashamed of being British) あれのせいでイギリス人はunfriendly(不親切で薄情)なやつだと思われたから。」
S君はイギリス人で奥さんがスペイン系オランダ人で、自身もヨーロッパ在住という、欧州統合の申し子のような人です。それだけにイギリスのEU離脱、Brexitは複雑なものがありました。
そんな話を続けても暗くなるので、話題は変わって培養肉会議の話や今の仕事の話、S君の子供の動画鑑賞会など、色々なキャッチアップをしました。イタリア料理屋でしたが、コックとウェイターがひょうきんなインド人という謎な店で、ウェイターさんのジョークがなかなか冴えてました。
その後レストランを出てS君の車に向かう途中、自分はいつもの調子で路上でやや際どいネタを振りました。
自分: 「そういえば3日前にEU議会を観光したとき、なくなる前にイギリスの旗の写真撮ってきたぞ!」
S君: 「やめてくれ、憂鬱になる! (Hey, stop it! That’s depressing!)」
笑いながらの返事でしたが、S君の声にははっきりとした張りがありました。