SU記事①:「バイオ」

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Singularity University GSPでやっていたことの、トピックごとレポートの1つ目、「DIYバイオ」です。

今回のエントリーは、Slideshareで公開しているスライドの解説になります。
https://www.slideshare.net/YukiHanyu/ss-80535076

今、企業でも大学でもない、個人や草の根チームからスタートする「ガレージ・バイオベンチャー (garage biotechnology startups)」という流れが起き始めています。

これまでバイオは実験室や極めて高価な科学研究機器が必要なため、大学や大企業しか手が出せない、と考えられてきました。ところがガレージ・バイオベンチャーは、近年現れてきた低価格理化学実験機器(オープンソースバイオリアクターとか)、バイオスペース、DIYバイオコミュニティーなどを使って研究開発を進めます。

こうした個人の研究や知識をシーズに育て上げる、ガレージ・バイオベンチャー専用のインキュベーター”Indie Bio”がサンフランシスコにあります。IndieBioはSOS Venturesが出資元で、同じくSOS-Vが出資元のハードウェアベンチャーインキュベーター「HAX」の真下の階にいます。Indie Bioからは2017年8月に$14Mを調達したMemphis Meats等が卒業しており、今注目を集めています。

このトレンドは何もないところから出てきたわけではありません。その参考になる事例がコンピューターとITの世界です。

コンピューターやITの世界では「ムーアの法則」というものが知られています。コンピューターの性能は18か月ごとに倍になる指数関数だよという話で、「メガトレンド」と言えるものす。

そのトレンドが続いた結果、1970年代半ばにはコンピューターが個人の手にも届くようになりました。そうして「ガレージ・コンピュータースタートアップ」が誕生します。Apple, Microsoftがその類です。そしてその後はCisco, OracleからGoogle, Facebookまで巨大な産業が生まれます。

そして同じことが今バイオにも起きています。「ムーアの法則」にあたるメガトレンドはDNA配列決定コストで、DNA合成コストも後続しています。

DNA配列決定は2000年前後までは一台国家事業でした。「ヒトゲノム計画」は期間10年予算30億ドルという巨大プロジェクトでした。しかしその後はムーアの法則を上回る速度で価格が下がり続け、現在は「ヒトゲノム計画」が3~10万円程度、近い将来には1000円を切るともいわれています。

DNA配列決定コストの低下と同時に、様々なDNA配列解析(遺伝子解析)サービスがあちこちで立ち上がりました。解析の対象もヒトゲノムからペット、野生動物、土壌菌、腸内細菌叢に広がり、「ビッグバン」とも呼べる状況になっています。

DNA配列決定コスト以外にも、DIYやオープンソースの実験機器、DIYバイオのコミュニティーや共有ラボもこの流れを支えています。その結果、予算10万円程度のDIYゲノム編集キットを使って自分で「デザイナーベビー」を作ることが可能になっています。

そして次に来ると言われているのが、DNA合成コストの低下です。このコストが下がれば、ありものを編集するだけでなく、望みの配列を持つDNAを自由に作ることができるようになります。

すると、「生き物を自由に設計する」が可能になります。目先では薬用ウイルスや微生物が考えられます。動植物を設計することで、恐竜(の形をした生き物)を作りだしたり、家の形に育つ木なんてものも作れます。ハードルは意外に低く、竹をゲノム編集してすべてが10倍サイズに育つようにすれば、それはもはや種一つから都市が育つ「都市の種」です。

それだけでも大ごとですが、さらにDIYバイオやバイオハックでの「細胞培養の低価格化」が重なれば、次のステップとして細胞組織培養や臓器培養が視野に入ってきます。(まだ再生医療や生体組織工学の技術が確立していないため、現時点ではまだ「将来的には」の域を超えません。)

DNAを自由に読み書きできて、かつ大規模に細胞・組織・臓器を培養できるようになると、そこには「ものづくり」ならぬ「なまものづくり」の世界が広がっています。サイボーグ部品、カメレオン細胞でできた「食用テレビ」、バイオニックスーツ、「風の谷のナウシカ」に出てくる王蟲や巨神兵や腐海を作る技術そのものです。

バイオでも爆発的に「できること」が増えると、誰が主導権をとるのでしょうか。

まず言えることは、これまでのように数では少ない大企業や大学や国家プロジェクトが取り組んでいるだけでは試行数が足りず、全く追いつけないということです。

米国では個人からスタートする「ガレージ・バイオベンチャー」が雨後のタケノコのように出てきています。バイオではまだ始まっていませんが、中国は国家戦略として、「大衆創業、万衆創新」を掲げ、何万人、何十万人で色々な革新的なモノやサービスを試しています。

この流れ、実はまったく新しい話でもなく、ITやハードウェアで繰り返されてきています。これについては別エントリーでまとめています。

インディー・バイオベンチャー(2) Hack-Make-Bio

Shojinmeat ProjectというDIYバイオ・バイオハックの集団から、インテグリカルチャー(株)というガレージ・バイオベンチャーが出ました。今後もこのような事例は増えていくと思います。